ステンレス鋼のろう付けは、なぜ非常に困難でありながら重要なのか。この記事では、酸化皮膜の除去から温度管理まで、ろう付け接合部の品質と耐久性に影響する重要な問題を探る。また、強靭で耐食性に優れた接合に必要な材料と技術についても解説する。読者は、ろう付け中の金属フィラーの選択とステンレス鋼の完全性を維持するためのベストプラクティスについて学ぶことができる。
ステンレス鋼のろう付けにおける主な問題 は、表面に酸化皮膜が存在することであり、こ れはろうの濡れ性と拡散性に大きく影響する。
様々なステンレス鋼は、相当量のCrを含み、さらにNi、Ti、Mn、Mo、Nbなどの元素を含むものもあり、これらは表面に様々な酸化物、さらには複合酸化物を形成する。その中でも、CrとTiの酸化物、Cr2O3 とTiO2かなり安定しており、外すのは難しい。
大気中でのろう付けでは、酸化皮膜を除去するために活性フラックスが必要となる。保護雰囲気でのろう付けでは、低露点、高純度雰囲気、十分な高温でなければ酸化皮膜を低減できない。真空ろう付けでは、良好なろう付け効果を得るために高い真空度と温度が必要である。
ステンレス鋼のろう付けにおけるもう一つの問題 は、加熱温度が母材の微細構造に大きな影響を与 えることである。オーステナイト系ステンレ ス鋼のろう付けの加熱温度は、過度の結晶粒成長を 引き起こす可能性があるため、1150℃を超 えるべきではない。
オーステナイト系ステンレス鋼にTiやNbのような安定化元素が 含まれておらず、かつ高強度である場合。 炭素含有量クロム炭化物の析出を防ぎ、耐食性を低下させるため、鋭敏化温度範囲(500~850℃)でのろう付けは避けるべきである。
の温度を選択する。 マルテンサイト系ステンレス鋼 ろう付けはより厳しい。ろう付け温度と焼き入れ温度を一致させるか、ろう付け温度と焼き入れ温度を組み合わせる必要がある。 ろう付け工程 または、ろう付け中の母材の軟化を防ぐため、ろう付け温度を焼戻し温度より低くする。
析出硬化ステンレス鋼のろう付けの温度選 択原則は、マルテンサイト系ステンレス鋼の 場合と同じである。
上記2つの主な問題に加え、オーステナイト系ステン レス鋼は、特に銅-亜鉛フィラーを使用したろう付 け時に、応力割れを起こしやすい。応力割れを防ぐには、加工材に応力除去を施す 必要がある。 アニール ろう付け前のワークの加熱と、ろう付け中のワークの加熱は、できる限り均一でなければならない。
(1) フィラーメタル
ステンレス鋼溶接品の要求に応じて、ステンレ ス鋼ろう付けに一般的に使用されるろう材には、錫 鉛はんだ、銀系ろう材、銅系ろう材、マンガン系 ろう材、ニッケル系ろう材、貴金属系ろう材があ る。
錫-鉛はんだは主にステンレス鋼の軟ろう付 けに使用され、錫含有量が高いほど好ましい。ろう中の錫含有量が高いほど、ステンレス鋼へのぬれ性が向上する。
1Cr18Ni9Tiステンレス鋼接合部を、一般 的に使用される数種の錫鉛はんだでろう付けした場 合のせん断強度を表3に示す。接合強度が低いため、耐荷重要件が低い部 品のろう付けにのみ使用される。
表3 錫-鉛はんだろう付け1Cr18Ni9Tiステンレス鋼継手のせん断強さ
はんだ合金グレード | スナップ | S-Sn90Pb | S-Pb58SnSb | S-Pb68SnSb | S-Pb80SnSb |
せん断強度 /MPa | 30.3 | 32.3 | 31.3 | 32.3 | 21.5 |
銀系ろう材は、ステンレス鋼のろう付けに最も一般的に使用されるろう材であり、銀-銅-亜鉛系および銀-銅-亜鉛-カドミウム系ろう材は、母材特性への影響が少ないため、最も広く使用されている。 ろう付け温度.
1Cr18Ni9Tiステンレス鋼継手の強度を表 4に示す。銀系金属フィラーでろう付けされたステンレ ス鋼継手は、腐食性の高い環境で使用され ることは稀であり、継手の使用温度は一般的に 300℃を超えない。
ニッケルを含まないステンレス鋼のろう付 けを行う場合は、湿気の多い環境でのろう付 け継手の腐食を防ぐため、B-Ag50CuZnCdNi のようなニッケル含有量の高いろう材を使用す べきである。
マルテンサイト系ステンレス鋼をろう付けす る場合は、母材の軟化を防ぐため、B-Ag40CuZnCdのような、 ろう付け温度が650℃を超えないろうを使用すべきである。
保護雰囲気中でステンレス鋼をろう付けする場 合、表面の酸化皮膜を除去するために、B-Ag92CuLi やB-Ag72CuLiなどのリチウム含有自溶性ろう材を使用できる。
ステンレス鋼を真空中でろう付けする場合、Mn、Ni、Rdなどの元素を含む銀ろうを選択することで、Zn、Cdなどの蒸発しやすい元素がなくても、ろうの濡れ性を良好にすることができる。
テーブル 4 強さ 銀系フィラー金属でろう付けされた1Cr18Ni9Tiステンレス鋼継手の
ろう材グレード | B-Ag10CuZn | B-Ag25CuZn | B-Ag45CuZn | B-Ag50CuZn |
引張強さ /MPa | 386 | 343 | 395 | 375 |
せん断強度 /MPa | 198 | 190 | 198 | 201 |
ろう材グレード | B-Ag70CuZn | B-Ag35CuZnCd | B-Ag40CuZnCd | B-Ag50CuZnCd |
引張強さ /MPa | 361 | 360 | 375 | 418 |
せん断強度 /MPa | 198 | 194 | 205 | 259 |
さまざまな鋼鉄継手のろう付けに使用される主な銅系ろう材には、純銅、銅-ニッケル、銅-マンガン-コバルトがある。純銅 銅ろう 材料は主にガス保護または真空条件下でのろう付けに使用される。
使用温度が400℃を超えないステンレス鋼の接合に適しているが、耐酸化性は良くない。銅-ニッケルろう材は主に火炎ろう付けや誘導ろう付けに使用される。
1Cr18Ni9Tiステンレス鋼のろう付け接合 部の強度を表5に示す。この接合部は母材と同じ強度を持ち、より高い温度で使用できることがわかる。
銅-マンガン-コバルト系ろう材は、主にマルテンサイト系ステンレス鋼のろう付けに保護雰囲気中で使用される。接合部の強度および使用温度は、金系ろう材でろう付けした接合部に匹敵する。
例えば、B-Cu58MnCoろう材でろう付けされた1Cr13ステンレス鋼継手の性能は、B-Au82Niろう材でろう付けされた同じステンレス鋼継手の性能と同等であるが(表6参照)、製造コストは大幅に削減される。
表5 高温銅系ろう材でろう付けした1Cr18Ni9Tiステンレス鋼継手のせん断強さ。
表5 高温銅系ろう材でろう付けした1Cr18Ni9Tiステンレス鋼継手のせん断強さ。
ろう材グレード | 引張強さ /MPa | ||
20℃ | 400℃ | 500℃ | |
B-Cu68NiSiB | 324~339 | 186~216 | – |
B-Cu69NiMnCuSiB | 241~298 | – | 139~153 |
表6 1Cr13ステンレス鋼ろう付け継手のせん断強さ
ろう材グレード | 引張強さ /MPa | |||
室温 | 427℃ | 538℃ | 649℃ | |
B-Cu58MnCo | 415 | 217 | 221 | 104 |
B-Au82Ni | 441 | 276 | 217 | 149 |
B-Ag54CuPd | 399 | 207 | 141 | 100 |
マンガン系ろう材は主にガスシールドろうに使用され、高純度ガスが要求される。母材の結晶粒成長を防ぐため、対応するろう材で1150℃以下のろう付け温度を使用することが望ましい。
表7に示すように、マンガン系ろう材を使用し てろう付けしたステンレス鋼継手でも、満足のいく ろう付け結果が得られる。接合部は600℃までの使用温度に耐える。
表7 マンガン系ろう材でろう付けした1Cr18Ni9Tiステンレス鋼継手のせん断強さ。
ろう材グレード | 引張強さ/MPa | |||||
20℃ | 300℃ | 500℃ | 600℃ | 700℃ | 800℃ | |
B-Mn70NiCr | 323 | 一 | 一 | 152 | – | 86 |
B-Mn40NiCrFeCo | 284 | 255 | 216 | – | 157 | 108 |
B-Mn50NiCo | 325 | 一 | 253 | 160 | – | 103 |
B-Mn50NiCuCrCo | 353 | 294 | 225 | 137 | – | 69 |
B-Mn52NiCuCr | 366 | 270 | 一 | 127 | – | 67 |
ステンレス鋼のろう付けにニッケルベースのはんだを使用すると、接合部は良好な高温性能を有する。このタイプのはんだは、一般にガスシールドブレージングまたは真空ブレージングに使用される。
ろう付け接合部に脆性化合物が過剰に形成され、接合強度と塑性変形性が著しく低下するという問題を克服するためには、接合部のクリアランスをできるだけ小さくし、はんだ中に脆性相を形成しやすい元素を母材中に十分に拡散させる必要がある。
過剰な絶縁時間によるろう付け温度での母材の結晶粒成長現象を防止するため、ろう付け後に短時間の絶縁と低温(ろう付け温度に比べて)拡散処理を採用することができる。
ステンレス鋼のろう付けに使用される貴金属はんだには、主に金系はんだとパラジウム含有はんだがあり、代表的なものにB-Au82NiとB-Ag54CuPdがある。B-Au82Niは濡れ性が良い。
ろう付けステンレス継手は高温強度と耐酸化性が高く、最高使用温度は800℃に達する。B-Ag54CuPdはB-Au82Niと似た特性を持ち、価格が安いので、B-Au82Niに取って代わる傾向がある。
(2) ブレージングフラックスと炉内雰囲気:ステンレス鋼の表面にはCr2O3 とTiO2活性フラックスを使用して除去する必要がある。錫鉛はんだでステンレスをろう付けする場合、フラックスとしてリン酸溶液または酸化亜鉛塩酸溶液を使用することができる。
リン酸溶液は活性化時間が短いため、 急速加熱ろう付け法が必要である。銀系はんだでステンレスをろう付けする場合、FB102、FB103、FB104フラックスが使用できる。ステンレス鋼を銅系はんだでろう付けする場合は、ろう付け温度が高いため、FB105フラックスを使用する。
炉内でステンレス鋼をろう付けする場合、真空雰囲気または水素、アルゴン、分解アンモニアなどの保護雰囲気が一般的である。真空ろう付けの場合、真空圧は10-2Pa以下が望ましい。
保護雰囲気中でろう付けする場合は、ガスの露点が-40℃を超えないようにする。ガス純度が十分でない場合やろう付け温度が高くない場合は、三フッ化ホウ素などのガスフラックスを少量添加してもよい。
ステンレス鋼をろう付けする前に、油脂膜を除去するためにより厳密な洗浄を行う必要がある。
ステンレス鋼のろう付けには、火炎、誘導、炉による加熱方法がある。炉ろう付けに使用する炉は、良好な温度制御システム(ろう付け温度の偏差が±6℃以内であること)と急速冷却が可能であることが必要である。
ろう付けの保護ガスとして水素を使用する場合、水素の要件はろう付け温度と母材の組成に依存する。
すなわち、ろう付け温度が低いほど、また母材中の安定剤含有量が多いほど、水素ガスの露点が低くなる。
例えば、1Cr13やCr17Ni2tのようなマルテンサイト系ステンレス鋼の場合、水素ガスの露点はろう付け温度1000℃で-40℃以下が望ましく、安定化されていない18-8クロムニッケルステンレス鋼の場合、水素ガスの露点はろう付け温度1150℃で25℃以下が望ましい。 チタン 安定剤を使用する場合、ろう付け温度1150℃における水素ガスの露点は-40℃以下でなければならない。
ろう付けの保護ガスとしてアルゴンを使用する場合、より高純度のアルゴンガスが必要となる。
ステンレス鋼の表面に銅メッキやニッケルメッキを施せば、保護ガスの純度を下げることができる。
ステンレス鋼表面の酸化皮膜を確実に除去するた めには、BF3ガスフラックスを添加するか、リ チウムまたはホウ素を含む自己融着はんだを使用す る。ステンレス鋼の真空ろう付けに必要な真空 度は、ろう付け温度に依存する。ろう付け温度の上昇に伴い、必要な真空度は減少する。
ステンレス鋼のろう付け後の主な工程は、残 留フラックスと残留フラックス抑制剤の洗浄であ り、必要に応じてろう付け後の熱処理を行う。使用するフラックスとろう付け方法に応じて、残留フラックスは、水洗、機械的洗浄、化学洗浄によって除去することができる。
接合部近辺の残留フラックスや酸化被膜のクリーニングに研磨剤を使用する場合は、砂などの 非金属 微粒子を使用すべきである。
マルテンサイト系ステンレス鋼および析出硬化系ステン レス鋼の部品には、材料の特別な要件に従って、 ろう付け後の熱処理が必要である。
ニッケル-クロム-ボロンはんだやニッケル-クロム-シリコンはんだでろう付けされたステンレス鋼継手は、継手ギャップの要件を減らし、継手の構造と特性を改善するために、ろう付け後に拡散熱処理を受けることが多い。